2020年8月23日

荒茶と仕上げ茶について深く知る(その2)

2020年3月27日に公開した記事「荒茶と仕上げ茶について深く知る(その1)」に続く、第2回です。訪問先の株式会社一言社長・一言和正さんと、東京都茶協同組合調査部長・深谷智治の対談方式でお届けします。

集合写真 前列左から一番目:一言和正さん 前列左から三番目:深谷調査部長

写真:工場内部の様子 工場内部

荒茶ができるまでの工程

【深谷】 私達お茶屋が「荒茶」と呼ぶものがありますが、摘採から荒茶までの加工工程の説明をお願いします。

【一言】 茶農家が茶葉を摘んで、蒸して、揉んで、乾燥という流れです。蒸された茶葉は大きく分けて、粗揉 → 揉捻 → 中揉 → 精揉の工程で熱を加えながら揉んでいきます。ただし、揉捻では熱を加えません。最後に乾燥機で乾燥させます。今は全部機械化されています。

茶葉を「蒸す」ことの意味と「萎凋(いちょう)」とは

【深谷】 茶葉をなぜ蒸すのか、教えていただけますか?

【一言】 酸化作用(萎凋)を抑えるためです。摘んだ茶葉は、時間がたつと萎凋します。萎凋は日本茶にとってマイナス要因と考えられていました。しかし最近では、萎凋しているお茶も世に出ています。独特の香りと味が良いと考えている方が増えているようです。ただ、茶農家や茶問屋にとっては、今は未知の分野ではないかと考えています。もちろん挑戦していくことは必要と思っていますが。

【深谷】 以前、中国茶の講習会を開いたのですが、紅茶と中国茶(雲南茶、東方美人茶、凍頂烏龍茶)は、萎凋の度合いや方法に差はあるものの、間違いなく萎凋させています。値段も日本茶の高級品より高いものがたくさんあります。日本茶でもそういうジャンルの可能性はあると思うので、ぜひとも、チャレンジを続けてほしいと思います。講師の方は、ペットボトルで売られている烏龍茶はひどいと言って嘆いていらっしゃいました。100グラム2000円~3000円位のイメージであれば本当においしい良品になると思いますが……。適度の渋みは絶対に必要ですが、渋すぎるものはいけません。渋みの成分は残して、それを感じさせないようにする茶を作る製法というか技術が必要なのではないかと、生意気にも思っています。その技術のひとつが萎凋ということだと理解しています。

【一言】 萎凋のお茶の話はこれくらいにして。乾燥の話をしましょう。荒茶を乾燥させて茶の含水率を5~6%にします。また、茶葉を蒸す時間は30秒から長いものでは2分ぐらいです。蒸す時間が長ければ、茶葉は細かくなります。蒸す時間については、茶葉の特性や産地の考え方ということになると思います。

【深谷】 私の先輩に岡田さんと村松さんがいて、どちらもお茶のことが好きで好きでたまらないという方です。岡田さんは「うまいお茶は2種類ある。こっくりとして旨みを感じるものと、のど越しの良いフレッシュ感のあるもの、いずれも後味の良いものである。」と常々力説しています。本人は否定するかもしれませんが、村松さんはどちらかというと「こっくり派」私は「フレッシュ派」なんです。こっくりとして旨味を感じるお茶はそれこそが火入れ技術であり、のど越しの良いフレッシュ感は、荒茶即ち素材を見抜く眼が重要などと考えてしまうのですが。

【一言】 茶問屋としては、火入れ技術で荒茶の持っている良さを最大限引き上げることはできますが、欠点のある茶に魔法をかけてよくすることはできません。ですので、荒茶の品質を見極める眼は当然、求められます。また、どちらの派が良いかということは申し上げられません(笑)

火入れの重要性。それは製茶問屋の生命線

写真:焙炉 「焙炉」昔はこの内部に炭を入れて、何台も並べて火入れをしていました。

【深谷】 「火入れ」の重要性や必要性についてお聞かせください。

【一言】 荒茶を火入れや仕分けすることにより、皆さんが飲んでいる仕上げ茶にします。一番重要な点は、茶葉の含水量をさらに下げて、おいしく飲める期間を長くすることです。5月に摘んで常温で保管した場合、夏を超えたころにはおそらく品質がかなり劣化していると思います。実験でなければやる人はいないのでは(笑)

火入れは、具体的には、細粉(ほそこ)・芽粉(めこ)・篭下(かごした)に分けたものを、それぞれに火入れ機にかけます。「火入れ」は正にそれぞれの問屋の個性が出る重要なポイントです。乾燥機の種類はもちろん、火入れの温度、時間で変わっていきます。荒茶をみて、乾燥機の種類、温度、時間を決めていきます。

【深谷】 火入れ機の代表的なものはドラム式と遠赤外線機だと思うのですが、違いはなんでしょう。

【一言】 回転ドラム式は茶葉の外側から火が入り、遠赤外線機は茶葉の中心から火が入ります。回転ドラム式と遠赤外線機にそれぞれ特徴のある香りがありますが、どちらが良いかは好みになると思います。ただし、火入れした時、遠赤外線機の方が茶葉の色落ちが少ないと思います。また、火香を強調したいときは、回転ドラム式が向いているように思います。

写真:回転ドラム式乾燥機< 回転ドラム式乾燥機

写真:遠赤外線乾燥機 遠赤外線乾燥機

【深谷】 火入れの温度についてはどうでしょうか。

【一言】 温度は上級茶、下級茶、蒸しの違い、得意先の好み等で違ってきます。荒茶を軽粉・芽粉・篭下にわけることは当然のことです。火の入る時間が異なりますから。おおむね、温度は80℃~120℃ぐらいです。

【深谷】 東京の水道水はどうしてもカルキ臭があるので、火入れが強くなっていると思います。ここからは、個人的な思いなのですが、浄水器や水を買う方も増え、いまではカルキ臭は減っているように思います。お茶の包装資材や冷凍技術も進歩していますので、茶葉の香りも以前よりも維持できるようになってきています。改めて、新茶期の香りを活かした煎茶をブームにしていきたいと思っています。いずれにしても、ペットボトルのお茶がお茶と思われているのは誠に残念です。お茶においしさを求めていないのかとさえ思ってしまいます。おいしくお茶を淹れることは難しくないのですが、敬遠されている気がします。これについては、茶業界がまとまって日本茶の素晴らしさをもっとアピールしていかなければならないと考えています。

【一言】 そうですね。お茶、特に煎茶になるかと思いますが、素材の持つ爽やか香りを生かした火入れをしていこうと考えています。

目指すはオンリーワン

【深谷】 合組(ごうぐみ=ブレンド)について少し話しませんか。偉そうに聞こえるかもしれませんが、私達小売店も目指すお茶を念頭に合組することで様々なタイプのお茶を販売しています。もちろんイチオシのものはあるのですが、煎茶・かぶせ茶・品種なども考慮しています。その中で、店の味を追求しています。

【一言】 ひとつのお茶で、香りよし、味よし、色よしのお茶は三拍子揃ったお茶はなかなかありません。あっても数量が限られます。ですから、香りの良いお茶、味の良いお茶、色の良いお茶を、お得意先にあわせて作るのが私たち問屋の仕事です。面白いことに得意先の好みのお茶は、同じ茶農家、同じ畑の茶になることが多いのです。

私たちもいろいろな合組をしています。産地、火入れ、合組で、それこそ何百何千通りのお茶ができます。それこそが問屋それぞれの個性になり、それを仕入れるお茶専門店の個性になっていると思います。お茶をお買い上げになるお客さまは、製造工程や合組についてはあまりご存じないと思います。折に触れて説明することが、これからのお茶のファンを増やしていく要素になると思います。

【深谷】 お忙しいところ、いろいろと教えていただきありがとうございました。最後に、藤枝市の名所とお茶以外の名物について教えてください。

【一言】 蓮華寺池公園があります。藤枝市のほぼ中央にある蓮華寺池をとりまくように公園が整備され、四季を通じて花と水と鳥が自然の彩りを添えています。毎年4月下旬から5月上旬には「藤まつり」が行われ、様々なイベントが開催されます。

写真:工場内部の様子

藤枝市の名所と名物

旧藤枝製茶貿易商館(とんがり屋根)

茶処・静岡の近代茶業幕開けを象徴する洋風建築で、外観の特徴から「とんがり屋根」と呼ばれています。清水港からの茶の輸出が始まった際、直輸出の貿易ルートを開くため、外国資本に牛耳られていた再生(加工)工場を創立。その一角に事務所として明治35年に建てられました。

写真:旧藤枝製茶貿易商館

写真:見学に行ったメンバー

藤枝朝ラーメン

お茶の仕事は早朝から行われ、一仕事終えた後に朝食代わりに食べ始めたことがきっかけで根付いたとされる、茶処ならではの食文化です。温かいラーメンと冷たいラーメンをセットで食べるのが藤枝流です。

写真:温かいラーメン 温かいラーメン

写真:冷たいラーメン 冷たいラーメン

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