連載「おいしいお茶を淹れる」:目次
- プロローグ
- ステップ 1「基本的なお茶の淹れ方を知る」
- ステップ 2「お茶を知る【前編】茶種を知ろう」
- ステップ 2「お茶を知る【後編】一杯のお茶にすべてが含まれている」
- ステップ 3「お茶に合った淹れ方が出来る」
- ステップ 4「飲む人に合わせて淹れる」
ステップ 3「お茶に合った淹れ方が出来る」 1.成分と煎茶、番茶
ステップ2では、茶種と「お茶の生まれ育ち」について学びました。
その中身の成分の違いは、大きく分けて
1. カテキン→苦渋味
2. カフェイン→渋味
3. テアニン(アミノ酸)→旨味、甘味
4. 繊維質
の4つです。
これに加えて、香気成分があります。
様々な種類のお茶は異なる成分バランス構成でできており、それぞれ成分には浸出の仕方に特性があります。
苦味と渋味のカテキンやカフェインは、湯温が高温になるにしたがって急激に浸出します。逆に旨味と甘味のテアニンは、低温の湯でも浸出するのです。
茶葉が持っている特性をうまく引き出すには、それぞれに合わせて淹れ方を工夫する必要があります。その工夫のひとつに製造過程における茶温(お茶の温度)があり、お茶を淹れる「湯温」を考える参考になります。
茶温を知る機会は皆無に等しいものです。しかし、それも元の葉によって概ね決まってくるものなので、まず葉の硬さと製造(蒸かしの度合)によって考えてみましょう。
ミル芽の普通蒸し
【淹れ方】少し高めの湯温で、少し浸出時間を短めに。
ミル芽は特にカフェインを多く含み、下味が強いものです。「ミル芽香」を大切に、渋みが強くならないように注意しましょう。
ミル芽の深蒸し
【淹れ方】少し低めの湯温で、平常の浸出時間で。
ミル芽の香りと味の濃さを楽しみましょう。浸出時間が長いと、深蒸しでも渋みが強くなります。
山間地の熟度のある普通蒸し
【淹れ方】低めの湯温でゆっくり浸出する。
「山間地の熟度のある普通蒸し」のお茶を出し切った急須の中
葉の持つ山間地の香気をじっくり出させましょう。湯温が高いと青臭さが出るので注意が必要です。
平坦地の熟度のある深蒸し
【淹れ方】少し低めの湯温で、長めに浸出する。お茶同士が絞めるように最後の一滴をしぼりだす。
「平坦地の熟度のある深蒸し」 のお茶を出し切った急須の中
旨みと味の濃さを引き出します。多少湯温が高めで早めの浸出でもOKです。
硬葉の普通蒸し
【淹れ方】熱湯で短めの浸出
浸出時間が長くなって苦味が出ないように注意します。
硬葉の深蒸し
【淹れ方】少し高めの湯温で、濃く出始めたら早く出し切ってしまう
硬葉に対応して湯温が高めなので、すぐに浸出して硬葉の苦味、香が出るので注意してください。
2.玉露
ここまでは煎茶と番茶の淹れ方で話を進め、ミル芽、硬葉、普通蒸し、深蒸しについて、浸出時間等を記してきました。浸出時間の重要なファクターは、葉の表皮が破壊しているかどうかによることが多いのです。
次に玉露について、淹れ方をみていきましょう。
玉露は日光を受けずに生育する為、表皮もやわらかく、あまり蒸熱しなくても蒸しが葉肉に通ることになります。そして茶温も50〜60℃位で、あまり力を加えずに揉みながら乾燥していきます。
即ち表皮が壊されていないこともあって、玉露を淹れる湯温は50℃位で浸出に3分くらいの時間をかけます。
甘みを主眼におかれたお茶なので、カテキン、カフェインを抑え、テアニンの浸出にあった淹れ方が必要となります。
製造もあまり加圧せずふっくら作り、淹れる時も湯を吸って膨らんだ時に膨張に対して負担がかからない宝瓶を使用し、淹れる際に力を加えて絞り出すことの無いよう注意をします。
お茶は力を加えることで「あく」「えぐみ」が出て、せっかくの旨みを邪魔することになります。
玉露の淹れ方
【淹れ方】
1)玉露を5人分10gを宝瓶に入れる。宝瓶を使うと、お茶が湯を吸った時、抵抗なく茶が膨らむ事ができます。
2)湯温50℃位の湯を玉露のお茶が浸る程度に注ぐ。
湯温が低めの方が、葉が湯を吸って浸出するのに幾分時間がかかるので、あわてずに落ち着いて淹れる事ができます。
宝瓶の玉露に湯を注いだところ
3)お茶が湯を吸って湯が見えなくなる少し前から静かに注ぎ分ける。
宝瓶の玉露が湯を吸って注ぎ分けるスタートの宝瓶の中の状態
4)最後の一滴は宝瓶を傾け、落ちるまで待つこと。
宝瓶の中の玉露は湯を吸って水平になったままの状態で浸出させ、絞り出すのに力を加えないでください
宝瓶で最後の一滴まで注ぎ分けている状態
3.火入れとその他の茶種について
お茶を淹れる際には、茶葉の仕上火入れの状態によって、味が大きく変わってきます。
加工の段階では、基本的にやわらかいお茶にはぬるく、繊維質の多くなった硬いお茶には強く入れます。
ミル芽のお茶に強く淹れると、味がきつくなります。
昔は新茶の出初めには火入れをせず、一ヶ月経った頃から秋くらいまでの間は弱めに火入れをしました。
秋口から人の味の感覚が鋭くなるのを見計らって、火入れを強くしていきます。
お茶の火入れは、四季の気象の変化による違いと、飲む人の体調の変化に合わせていきます。それにより逆に「いつも同じお茶を楽しんでいる」と思えるようにするのです。
昨今は、火入れの味や香りがお茶の味と見誤られるようになってきて、新茶から年間同じ強い火入れをするようになってきています。
火入れと湯温と浸出時間については、それぞれの好みもあるので一概には言えませんが、一般的には火入れの弱いお茶はぬるめの湯でゆっくり淹れます。逆に火入れの強いお茶は、基本的には熱い湯でサッと出します。あまり浸出時間をかけると苦味が出ます。
釜炒り茶のような300℃近い鉄に触れて青殺されたお茶でも、淹れる温度は熱湯で40秒位で、釜炒り茶独特の釜香と甘みを楽しめます。
火入れの香りを楽しむお茶は、少し高めの湯温で淹れますが、お茶そのものの持つ香りを楽しむ場合には低温で淹れます。
手揉み茶や玉露のようにお茶の持つ味や香りを引き出すのに、低温で長時間の浸出によって出てくる香もあります。また玄米茶は、番茶や炒った玄米を使用することから高温の湯で浸出し、焙じ茶は二次加工で高い温度で焙じるので熱湯で淹れます。
ここまで見てきたように、おいしいお茶を淹れるのには茶葉の個性を知る必要があり、製造過程の中でどのような温度で作られたかを考えながら淹れることで、それぞれの茶葉に合った味を楽しむことができることでしょう。
次の記事は、ステップ 4「飲む人に合わせて淹れる」です!